前回までにバロック期の作曲家、ハイドンの作品をいろいろと聴いてきました。
ここまで聴いた曲は、ほとんどがテンポの速い踊りの曲でしたが、さらにほかの作品を聴き比べてみましょう。 今回スポットを当てるのは、ハイドンの次の世代の作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品です。
Wolfgang Amadeus Mozart
さて、モーツァルトといえば天才の代名詞のような人物ですが、なんの努力もなしに天才だったわけではないようで、父レオポルトの下で幼少期からみっちり鍛え上げられたそうです。そういった部分はあまり表に出てこないので、なんの努力もなしに才能だけ、感性だけで素晴らしい作品を書き上げたかのように思ってしまいがちですが、そうではないんですね。
ハイドンの弦楽四重奏曲に衝撃を受けたモーツァルト。その要素を自分の作品に取り込むべく、推敲に推敲を重ねて書かれた作品が、ハイドンセットと呼ばれる6曲からなる弦楽四重奏なのですが、、それはまた別の機会に。
それでは、モーツァルトが書いた3/8の曲を聴き比べていきます。
セレナード第12番(K.388)第2楽章 変ホ長調 Andante
とても穏やかな幸福感。
ピアノ協奏曲第22番(K.482)第2楽章 ハ短調 Andante
先に聴いたセレナードと同じテンポAndanteで、変ホ長調と関係がとても近いハ短調で書かれています。短調の陰りの中にところどころ現れる長調が、悲しいけれどできるだけ明るく振舞おうとしているかのようで、とても複雑な気持ちにさせられます。
交響曲第4番(K.19)第3楽章 ニ長調 Presto
モーツァルト初期の作品。急-緩-急の3楽章構成、イタリア風序曲のスタイルで書かれています。ハイドンからの影響が色濃い楽曲。早い3拍子の舞曲です。
交響曲第17番(K.129)第3楽章 ト長調 Allegro
同じくイタリア風序曲の3楽章フィナーレ。舞曲のようですがパスピエかな。とても軽快で楽しい気分です。
交響曲第32番(K.318)第2楽章ト長調 Andante
この曲もまたイタリア風序曲のスタイルで、急-緩-急の緩の部分を3/8で書いています。当時は序曲と交響曲の厳密な区別がなかったそう。セレナード第12番、ピアノ協奏曲第22番で聴いたものと同じくテンポはAndante。
オペラ『ドン・ジョバンニ』より 第1幕20景 3つのオーケストラの場
このオペラの第1幕のフィナーレで、主人公ドン・ジョバンニが自邸でのパーティーで村娘のツェルリーナを誘惑するシーン。たくさんの客人がそれぞれの身分にふさわしい踊りを踊るのですが、それに合わせて3つに別れたオーケストラがそれぞれのスタイルで音楽を奏でます。
まずはじめはメヌエット(3/4拍子)をドンナ・アンナとドン・オッターヴィオの二人の貴族らが、次いで中流階級のためのコルトンダンス(2/4拍子)を貴族のドン・ジョバンニと村娘のツェルリーナらが、最後に農民のためのドイツ舞曲(3/8拍子)をドン・ジョバンニの従者レポレッロと農夫のマゼットらがそれぞれの音楽に合わせて踊ります。
身分の違いによって踊りが違うということは、これまで特に意識したことも考えたこともなかったのでとても興味深いですね。
オペラ『ドン・ジョバンニ』より 第2幕6景 「恋人よ、さあこの薬で」
ドン・ジョバンニに婚約者のツェルリーナを口説かれて怒り心頭の農夫マゼット。
ドン・ジョバンニを懲らしめてやろうと村人たちと連れ立って出かけますが、従者レポレッロに変装したドン・ジョバンニに不意をつかれて殴る蹴るの返り討ちにあってしまいます。
そのマゼットの悲鳴を聞きつけて駆けつけたツェルリーナが、彼を介抱しながら歌うこのアリア。
いい子にしてたらいいお薬をあなたにあげるわと言って自分の胸に触れさせるツェルリーナ、ほらドキドキしてるのがわかる?と介抱されて元気になるマゼットでした笑
まとめ
今回聴き比べてみたモーツァルトの作品では
- 変ホ長調とハ短調という関係性の深い調性を用いたAndanteのゆっくりした曲
- イタリア風序曲の中
- 身分の低い農夫のダンス
こういった曲の中で3/8拍子が用いられていました。
いまテーマにしているのは「3/8拍子を用いた曲」ですが、こうやってなにかひとつのことをテーマにして比較してみて、これまで知らなかったことについて触れることができたり、なんとなく知ってたようなことがはっきりしてきたり、いいことがいっぱいです!
次はベートーベンかな。いろいろ聴き比べてまた書きますね。
ではまた!
サクソフォン奏者
あわつゆうた(粟津雄太)